海軍鳩
□side 0 君の昔を
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修行の帰り道、森へ寄り道したオレは、拾った枝を振り回し、シルクハットのズレを直す。
少し奥まで入ると誰かが泣いているのが聞こえ、気になってそこに行けば、女の子が白いハトを抱いて座り込んでいた。
「お前、こんな所で何してる」
オレがそう聞くと、ソイツは目を赤くして迷子だと言った。
「戻る穴が分からなくて、あとハトさんが怪我してるの…っ
救急箱取りに行けないぃ…っ」
ハトは翼に少し血が付いていて、悲しそうに鳴く。
それに対してソイツは泣き出し、仕方なくオレは一緒に穴を探すことにした。
ソイツの話を頼りに森を歩いていたが、穴についてちょっと気になった。
「…穴ってなんだよ」
「分かんない。
神社で遊んでたら裏に穴があって、入ったらここだったの」
そう聞いても分からず、取り敢えず探す。
「草の中から出たの!
でも何処の草か分からないの!」
「泣くなやかましい」
ウザったいから睨んだが、更に泣きそうになる。
面倒くさい。
「………ん?
これは………」
ふと茂みを見たら、その奥に何かある。
ソイツは嬉しそうに駆け出し、中に入っていく。
後に続くと、見たことのない場所に出た。
「何だここは…」
「神社だよ?
ハトさん手当するから一緒に行こ?」
ソイツはオレに手を差し伸べ、オレはその手を弾いて睨んだ。
「手なんか繋ぐか」
「………」
そしたらまた泣きそうになって、仕方なく手を取ってやる。
「美久里っていうんだ。
キミは?」
「………ルッチ」
「ルッチくん?
変なの」
ムカついたから殴ったら、ソイツは泣きそうな顔で謝った。
「家行くんだろ、早くしろよ」
「うん……」
美久里は手を取ったまま歩き出し、家に着く。
途中、見たことのない物ばかりで、一体ここがドコなのか気になった。
オレの島に、こんな場所はない。
それに、なぜ海がない。
「オイ、ここはドコだ」
「私の家だよ?」
「違う、島の話をしてるんだ」
そしたら美久里は首を傾げる。
「…?
日本?サイタマ?」
「ニホン?サイタマ?
…何処の海だ」
「海?埼玉に海?
……ママー」
美久里はドアを開け、母親を呼ぶ。
すると直ぐに母親がやって来て、ハトの怪我も治すために救急箱も用意した。
「真っ白なハトさんね」
母親はそう言って笑い、そこで美久里は再び先程の質問をした。
「ママー、埼玉って海ある?」
「埼玉には海無いねー。
隣の東京にはあるわよ」
「だってさ、ルッチくん」
全部聞いたことのない場所で、オレは色々考えた。
ここは別な場所なんだろうが、かなり大きな島だ。
「なぁ、ここは何処の海に位置する」
「?」
「えーっとね、ここは太平洋が近いかな」
やはり聞いたこと無い。
それから母親は買い物に行くといって、ハトを抱いたまま美久里と家を出た。
それからオレは元の穴に戻り、その日は過ぎて行った。
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次の日、気になってその穴を覗きに行ったらまだあった。
くぐってみると、また美久里に出会った。
「ルッチくんだ!
こんにちわ!!」
「………」
「遊ぼ!!」
美久里に手を引かれ、オレは林の方へと向かう。
そこにはあのハトも居て、広げられてる物を見て何をやるのか直ぐに分かった。
「ままごとか」
「ルッチくん何歳?」
「4歳」
「じゃあ、美久里がお母さん、ハトさんお父さん。
ルッチくん息子ね」
ハトにネクタイまで巻いたが、解せない言葉にオレが反論すると美久里が「私の方がおねーさんだもん!
私年下の旦那さんなんてイヤだもん」とか言ってきてオレは怒った。
「誰がままごとなんかするかっ!!」
オレは怒ってまた穴をくぐる。
…でもなぜかオレはアイツが気になって、それからしばらくの間、ここでアイツと何度も会った。
ハトも、オレの方が懐かれていたから預かっていたが、美久里が意味の分からない名前を付けて満足そうに笑う。
何故か、オレも嬉しくなる。
それからまた何日も遊び、競争や
、この国のことなんかも学んだ。
もしかしたら、ここは別な世界なのかもしれない。
「美久里、木登りするぞ」
「えー!
美久里登れないよ!」
それをよそにオレは木に登っていく。
美久里は下から危ないと言ってきたが、オレは気にせず登り続けた。
「子供がそんなトコまで登っちゃいけないんだよ!
危ないよ!!」
「こんなもん落ちたって平気だ!
CPになるにはこれくらい出来なきゃいけないんだぞ」
それに対して美久里は首を傾げ、オレはそこまで説明するのも面倒だったから、それ以上言わなかった。
―――刹那、オレの掴んでいた枝が折れ、下に落ちる。
落ちるだけなら良かったが、下には美久里がいて、持っていた枝で肩を刺してしまった。
「いっ―――!!
うえぇぇぇ………っ!!」
「大丈夫か!」
直ぐに枝を抜くが、ジワジワと血が溢れて美久里は泣いた。
傷付ける気なんか無かったんだ。
「ごめん……」
「パパの病院そこだから……
大丈夫………っがばんずる……っ」
泣くのを我慢して美久里は病院へと歩いて行く。
オレは申し訳なくて付いていき、直ぐに手当をされた。
「もう大丈夫だよ。
でもどうしたんだ?こんな傷」
父親がそう言ってオレに視線を向ける。
すると美久里があわててオレをかばうから、父親はニコリと笑い一言「気を付けなさい」と言ってオレたちを送り出した。
「………美久里」
「なぁに?」
神社の方へと歩いて行きながら、美久里を呼ぶ。
オレはスッと息を吸い、まっすぐ美久里の目を見つめた。
「傷付けて悪かった………」
「いいよ、もう痛くないもん」
ニコッと笑う、アイツの顔で、オレの胸は熱くなった。
「っ傷が残ったら、オレが貰ってやる!」
そしたら美久里はキョトンとしてから笑い、オレは言葉を続ける。
「本気だぞ!
嫁にしてやるからな!」
「ルッチくん子供じゃん、私年下はヤなの」
ものすごく傷つくことを言われたが、傷付けたのがコッチだから何も言えない。
でも美久里はまた笑い、口を開いた。
「でもルッチくんならいいよ!
じゃあ大っきくなったらルッチくんのお嫁さんだ!あはは!!」
嬉しそうに笑い、オレも笑った。
傷が残ってくれたら
いや、残らなくても
コイツと結婚しようと思った。
「約束だからね!
指切り!!」
小指を絡め、美久里は誓の言葉を口ずさむ。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!
指切った!!」
それからまた笑い、日が暮れるまっで遊んだ。
オレは…
美久里と離れ離れになるなんて、夢にも思わず
これが永遠に続くと思った
…それが、穴が閉じてしまう3日前の日の事だった。
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